コンテンツに

DEBUT

Infinite Joy、ついにOPEN!

『軌跡』と歩んできた、日本ファルコム

9月17日発売予定の『空の軌跡 the 2nd』が、いよいよ発売を迎える。

2006年に発売された『英雄伝説 空の軌跡SC』を現代向けにフルリメイクした作品で、Nintendo Switch 2、Nintendo Switch、PlayStation 5、Steam向けに展開される。

原作から約20年。かつて『空の軌跡SC』として描かれた物語が、現在のゲーム環境に合わせて再構築されることになる。ただ、『the 2nd』を単純に「20年前のRPGのリメイク」として見ると、この作品が持つ意味は少し見えにくい。20年以上にわたって一つの世界を拡張してきた日本ファルコムが、ここにきてシリーズの原点へ戻っていることだ。

2025年9月に発売された前作『空の軌跡 the 1st』は、Steamで全期間のユーザーレビューの97%が好意的となっており、日本のPlayStation Storeでも6,000件を超える評価を集めている。PS5版のMetacriticスコアも87点となった。さらに2026年5月、日本ファルコムは『空の軌跡 the 1st』の全世界販売が引き続き堅調に推移していることを理由に、業績予想を上方修正した。

少なくとも、古いIPを現代向けに作り直すという試みが、評価だけでなく販売面でも一定の結果につながっていることは確認できる。

ただし、この結果をそのまま「旧作リメイクが成功した」と結論づけることもできない。『空の軌跡』は「軌跡」シリーズの原点であり、長年のファンにとって特別な位置にある。さらに『the 1st』では、シリーズとして初めて全世界同時発売を行い、複数のプラットフォームと多言語展開も進められた。

そのため、販売が好調だった理由を、リメイクそのもの、IPの蓄積、グローバル展開、プラットフォームの拡大などに明確に切り分けることは難しい。

1981年から続く、日本ファルコム

日本ファルコムは1981年に創業した。

『ドラゴンスレイヤー』『ザナドゥ』など1980年代の国産PCゲーム市場を代表するタイトルを生み出し、その後『イース』『英雄伝説』へと自社IPを積み重ねていった。現在も『イース』と『英雄伝説』はファルコムを代表するシリーズであり、その中でも『軌跡』は特に長い歴史を持つ。

2004年の『英雄伝説 空の軌跡FC』から始まり、『SC』『the 3rd』、さらに『零の軌跡』『碧の軌跡』『閃の軌跡』シリーズ、『創の軌跡』『黎の軌跡』へと続いてきた。特徴的なのは、作品ごとに世界をリセットするのではなく、同じ世界の中で物語を積み重ねてきたことだ。主人公や舞台が変わっても、過去の作品で登場した人物や国家、組織、事件が後の作品にも関係してくる。

2025年には「軌跡」シリーズの累計販売本数が900万本を突破したことも発表された。これは、一つの作品が長期間売れ続けるという話とは少し違う。過去の作品が次の作品の背景となり、過去のキャラクターや設定が新しい作品の価値にもつながっていく。

『軌跡』は、作品そのものだけでなく、シリーズを続けることで蓄積されていく情報やファンも含めて、一つの大きなIPになっている。

「積み重ね」は、そのまま強みになるのか

ただし、長期シリーズには当然ながら反対側の問題もある。作品が増えるほど、既存ユーザーにとっては世界が広がる。一方で、新しく入ろうとするユーザーにとっては、その世界がどこから始まっているのか分かりにくくなる。

『軌跡』の場合、過去作の情報は単なる設定資料ではない。登場人物、国家、組織、過去の事件などが後の作品にも影響するため、過去作の知識が現在の物語を理解するための文脈そのものになっている。長く遊んできたユーザーにとっては、それがシリーズの魅力になる。

しかし、新規ユーザーからすれば、「どの作品から始めればいいのか」という問題にもなる。特に『閃の軌跡』では、4作品にわたってエレボニア帝国を中心とした物語が描かれ、その後も舞台や人物がさらに広がっていった。シリーズが大きくなること自体は悪いことではない。問題は、既存ユーザーにとっての「深さ」と、新規ユーザーにとっての「入りやすさ」が必ずしも一致しないことだ。

『軌跡』が長く続いてきたからこそ、この問題も大きくなった。そして現在の『空の軌跡 the 1st』『the 2nd』は、そこに対する一つのアプローチとして見ることができる。最新作をさらに先へ進めるのではなく、一度シリーズの原点まで戻る。

20年前のRPGを、そのまま再現しない

『空の軌跡 the 1st』が、原作をそのまま現代のハードへ移植したわけでも、別のゲームに作り替えたわけでもないところにある。物語やキャラクター、クオーツを中心とした基本構造は原作を引き継ぎながら、グラフィック、移動、操作、戦闘などには現代向けの変更が加えられている。特に戦闘では、クイックバトルとコマンドバトルを組み合わせることで、原作にはなかったテンポの調整が行われている。一方で、導力器にクオーツを組み込み、アーツやクラフトを組み合わせるという『空の軌跡』の基本的な考え方は残されている。

つまり、「昔のゲームを現代の画面で再現する」という方向ではない。かといって、タイトルだけを借りて新しいゲームを作るわけでもない。原作が持っていたゲームデザインの核を残しながら、現在のプレイ環境に合わせて周辺部分を作り直す。

『the 1st』の位置づけは、その中間にある。この方法がどこまで有効なのかは、今後も見る必要がある。『the 1st』が好評だったことは事実だが、一作の結果だけで「古いRPGをこの方法でリメイクすれば成功する」とまでは言えないからだ。

ファルコムは、大手でもインディーでもない

ここで改めてファルコムという会社を見ると、もう一つ特徴がある。日本ファルコムは上場企業であり、インディーの小規模スタジオとは立場が違う。しかし、世界規模のAAAタイトルを数千人規模の開発体制で制作する大手パブリッシャーとも違う。

むしろ、自社IPを長期間維持し、そのIPを複数の作品やプラットフォームへ展開していくことに重点を置いた会社と考えたほうが分かりやすい。一つのタイトルを巨大化させるというより、長く続けられるシリーズを持ち、それを時間をかけて更新していく。そのため、ファルコムのゲームを見ると、企業そのものよりも先に『イース』や『軌跡』というIPが見えてくる。

一方で、作品と会社の距離が比較的近いという特徴もある。近藤季洋氏はゲーム情報番組やイベントなどに継続的に登場し、作品や会社について自ら説明している。もちろん、実際の開発は多数のスタッフによって行われているため、ファルコムを一人のクリエイターだけで説明することはできない。それでも、会社の代表者が作品について継続的に発信することで、「このゲームを作っている会社はどこなのか」という部分までファンが認識しやすくなる。

ただ、それが実際の販売やIPの継続にどの程度影響しているのかは、外部から簡単に判断できるものではない。

海外展開も「一度売って終わり」ではない

ファルコムと海外市場との関係も長い。『軌跡』や『イース』では、中国語・韓国語版が継続的に展開されており、近年は欧米向けのローカライズや販売も行われている。

2025年の『空の軌跡 the 1st』では、ファルコムとして初めて全世界同時発売を実施した。中国市場との接点も長く、ゲームのローカライズだけでなく、イベント配信や音楽活動などを通じた展開も続けてきた。2025年にはjdkBANDが広州、上海、北京を巡る中国・アジアツアーを開催している。こうした活動を、ファンとの長期的な関係づくりと見ることもできる。

一方で、海外市場で継続的に販売するためのマーケティング活動という側面もある。どちらか一方だけで説明する必要はない。重要なのは、ファルコムが長期間にわたって複数の地域で作品を展開してきたことであり、『the 1st』の全世界同時発売は、その流れをさらに進めたものと見ることができる。

「積み重ね」は資産であり、同時に負担でもある

ここまでを見ると、ファルコムのビジネスモデルの特徴は、長期的なIPの蓄積にある。長く続いてきたことで、過去の作品、キャラクター、音楽、設定、そしてファンが次の作品につながる。これは新規IPを毎回ゼロから立ち上げる場合にはない利点だ。

しかし、その積み重ねは同時にシリーズを複雑にもする。作品が増えるほど、既存ユーザーにとっては世界が深くなる一方、新規ユーザーにとっては理解すべきものが増えていく。『軌跡』の場合、過去作の情報が単なる設定ではなく、後の作品を理解するための文脈そのものになっているため、この問題は特に大きい。

『空の軌跡 the 1st』と『the 2nd』は、そこに対して一度原点へ戻るという方法を取っている。『the 1st』は評価、販売の両面で一定の成果を見せた。ただし、その結果をリメイクという手法だけに結びつけることはできない。『空の軌跡』というシリーズの原点であること、長年のファンが存在すること、初の全世界同時発売、多言語・マルチプラットフォーム展開など、複数の要素が同時に存在していたからだ。

だからこそ、『the 2nd』はもう一つの興味深い事例になる。20年以上続いてきたシリーズが、過去のファンに向けて歴史を再提示するだけではなく、その原点を現在のユーザーにとって新しい入口として成立させられるのか。これは『空の軌跡 the 2nd』という一作品の評価だけでなく、ファルコムが長年続けてきたIPの運用方法そのものを見るうえでも重要なポイントになる。ファルコムはAAAメーカーほど巨大ではない。

一方で、一作ごとに新しいIPを立ち上げるタイプのスタジオでもない。長い時間をかけて自社IPを育て、その蓄積を次の作品へつないでいく。その方法は、シリーズに歴史と厚みを与える一方で、新しいユーザーとの距離を広げる可能性も持っている。『空の軌跡 the 2nd』が面白いのは、まさにその両面が一つの作品に集まっているからだ。20年前の作品を現代向けに作り直すこと自体よりも、20年以上かけて大きくなったIPを、もう一度どこから始めさせるのか。

9月17日の発売は、その選択がどのように受け止められるのかを見る一つの区切りになる。

前の投稿 次の記事
INFINITE JOY|ようこそ